インサートモールドに携わるまでの経緯を教えてください。
実家がプレス工場だったので、物心が付いたときからボール盤に触れ、自転車を自作するなど、身近に「ものづくり」がある環境で育ちました。家業とは違うことをしたかったので最初はダイカスト(金属鋳造)に関わる会社に就職しましたが、その後、プラスチック成形の精密さや美しさ、形状の自由さなどに惹かれ、その世界に入りました。一方で家業だったプレス加工にも興味を持ち勉強していましたので、いつのまにか金属とプラスチックの両方の素地が出来たこともあり、インサートモールドに携わるようになりました。
CAE 導入の目的は何でしょうか?
ひとつは調整の繰り返しで時間が掛かっていた金型作りの最後の調整期間をコンピュータのシミュレーションで劇的に短縮することですが、もっと重要なのは網羅的な加工理論を確立することです。CAE はデータや理論がコンピュータで共有されますので、個人の力量に左右されにくく、誰にでも使えるのが特長です。ただ、CAE は導入してすぐには使えるものではなく、最初はシミュレーションと実際にズレが生じます。その原因を究明し、ズレが生じなくなるまで失敗のデータを蓄積することが必要ですので、自分が目指すものになるまで何年かは掛かると思います。
当社におけるインサートモールドの強みは何だと思いますか?
他社はお客様の図面通りに作るだけですが、当社は機能や使い方を聞いた上で独自に設計し、ユニットで提案できることです。お客様はインサートモールドの専門家でも、特性を十分に理解しているわけでもないので、そのポテンシャルが100% 活かされた設計提案は喜んでいただけます。また、CAE が軌道に乗れば海外でも同等の品質で生産できるようになります。これはグローバルで同一部品の供給が求められる自動車産業において特に有利です。
山本さんは匠とはどのような人だと思いますか?
技術を次の世代に継承し、人材を育成できる人だと思います。私は部下には極力口出しをせず、自分で考えさせるようにしてきました。そんな方針もあり、若い課員たちは相当なレベルに達してきたと実感しています。また、私は靴作りが趣味なのですが、休日は松脂を塗った繊維を編みこんで強い糸を作ったり、皮包丁を研いだりと「匠」の世界に没頭しています。靴は、履く人の生活スタイルや履き心地を考え、心を込めて作ります。この「相手を思う気持ち」も、ものづくりには大切であると思っています。
金属部品に溶融したプラスチックを包み込み固化させ、プラスチックと金属を一体化した複合部品を作る工法です。プラスチックに当社の中核技術のひとつである“薄板ばね”を融合できる付加価値の高い製品であり、従来から電子部品としてOA機器や家電向けに多用されてきました。近年は電子化の進む自動車向けが増えています。
拡大の背景、“自動車の電子化”
近年、自動車は“電子化”が進んでいます。“自動車の電子化”と聞くと電気自動車やハイブリッド車を連想しますが、ガソリン車にも多くの電子部品が使われています。電子化の目的の一つは燃費向上です。最高の燃焼効率と最小の排出ガス量になるように電子的にエンジンシリンダーに注入する燃料と空気の配分、プラグの着火タイミングなどをコントロールします。電子化の二つ目の目的は安全性の向上です。自動ブレーキやABS(アンチロックブレーキシステム)などもそのひとつです。自動車は電子化により燃費や安全性が向上するに伴い、車1台あたりの電子部品は増えていきます。
自動車の“電子化”“軽量化”にマッチ
インサートモールドは、元々はOA 機器や家電に多用された電子部品ですが、近年は“自動車の電子化”の流れにより自動車向け需要が拡大しています。プラスチックは絶縁性が高く、高圧通電でもショート(短絡)しにくいことなどが自動車電子部品として多用される理由です。また、自動車部品は車体の軽量化のため金属製から重量の軽いプラスチック製への切り替えが進んでいます。インサートモールドは“単なるプラスチック化”だけではなく、その絶縁性の高さから複数の機能を凝縮して、小型軽量化することも可能です。
当社のインサートモールドの特長
当社は、金属加工とプラスチック成形の両方の技術と、それらを最適に融合させるノウハウで他社と差別化しています。
1.品質・生産性
他社は通常、金属とプラスチックの成形を別々の会社・工程で行いますが、当社は両工程を連結し、更にファクトリーオートメーションの導入により外観検査や梱包作業までも自動化が可能なことから、品質と生産性の両方において有利です。
2.精密加工
連結・自動化された工程は、品質・生産性が高いだけではなく、手作業を排除できることから通常ハンドリングできない小さく薄い金属部品(薄板ばねなど)も加工が可能です。また、ワイヤーフォーミングなどの線材との一体成形も当社の独自技術です。
3.設計の自由度、提案力
金属とプラスチックの両方を熟知する技術者が設計するので、設計の自由度が高くなります。独自の提案により、付加価値を高めることも可能です。