匠の技術

匠の技術とは


アドバネクスでは今までどのような仕事に従事してきましたか?

入社時は品質保証部門に配属されました。 品質保証の仕事は今となっては貴重なノウハウの習得になったと思いますが、当時は機械いじりがしたくて仕方がなかったので毎年異動願いを出し続けて、ようやく6年目に製造部門に異動させてもらいました。 以降約20年間、ずっとフォーミング加工に従事しています。

線パッキンのプロジェクトを任されたときはどう思いましたか?

線パッキンは数量が月産5千万個と私が過去に経験したことの無いほどの膨大な数量で、品質基準も厳しいことから大きなプレッシャーを感じました。 それに加えて与えられた投資予算も少なく、工場の隅っこに置かれていた古い遊休資産などを活用することが前提でしたので、最初は問題山積みでした。

線パッキンの生産設備には多くのユニークなアイデアが詰め込まれていますが、それらはどのようにして生まれたのですか?

私は他の匠の方達と違って突き抜けた発想力はありませんので、先ずは過去の事例を調べて応用できそうなものを探しました。 幸い応用できる事例がいくつかありましたので、それを線パッキン用にアレンジして導入しました。 それ以外でも、周りの人たちを巻き込んでディスカッションしながらアイデアを出してもらいました。 前述のとおり、「古い遊休資産の活用」「少ない投資予算」が条件でしたので、カラクリ仕掛けのようなユニークなものにならざるを得ませんでした。

田中さん

実際、線パッキンのプロジェクトではどのような苦労がありましたか?

月産5千万個は今まで経験したことの無いボリュームでしたので、機械への負荷も大きく想定外のトラブルもありました。 また、線パッキンの材料はステンレスなどのばね材と違って少しの負荷で変形するなど加工の面でも苦労しました。 最初は試行錯誤の繰り返しで、なかなか軌道に乗りませんでしたが、仲間の協力もあって今では当初描いていた姿に近づいてきました。

今後はどのような進化を目指していますか?

夜のシフトを完全自動化したいです。 ロット区分を自動で仕分けする装置を開発したので道具立ては揃いました。 もう少し量産と品質管理の実績を積んで完成度を確認してから実施したいと思っています。

田中さんにとって匠とはどんな人でしょうか?

壁にあたっても仕事を楽しんで最後までやる人だと思います。 若い頃、私に仕事を教えてくれた先輩達はどんなトラブルも一目で原因を看破する匠の技術者で、問題が解決するまで根気強く私に付き添ってくれるなど、その姿勢を行動でも示してくれました。 入社してからの20数年間で当社の顧客やその製品群は大きく変わり、また、センサーやコンピューター制御、自動化、デジタル解析などの新しい技術も導入されました。 しかし、金属加工の根幹は変わっておらず、先輩達から教わったノウハウは今でも通用しますし、今後も通用していくと信じています。 これからも私が先輩達から受け継いだ田中さん ものを若い後輩達にも引き継いでいきたいと思います。

遊休資産を高性能機によみがえらせる改良技術

当社は遊休資産を改造し新製品用の設備として蘇らせるのが得意です。また、単に復旧させるに留まらず、高生産性・高品質の設備に進化させています。 今回、遊休資産だったマルチフォーミングマシンを活用した自動車向け新製品「線パッキン」の生産設備を紹介します。

線パッキンの生産現場 機構や仕掛けの具体的内容については企業秘密とさせていただきます。

線パッキンとは

基本的な機能は水道の蛇口につかうゴムパッキンと同じですが、この線パッキンは金属でできており、自動車のエンジンの燃焼系部品に使われています。 エンジン内部は爆発を繰り返しますので、燃焼系部品にも大きな圧力が加わります。 線パッキンはそこにかかる圧力でガスが外に漏れないように補強する重要な部品です。

線パッキンに求められること

線パッキンは自動車一台に10〜30個使われることから必要総数は膨大で、現在当社は月産5千万個を生産しています。 また、自動車の不具合は人命に直結すること、リコールによる企業へのダメージが大きいことから万に一つの NG 品の流出も許されません。

ポイント

@ 遊休資産を再利用

遊休資産となっていた30〜40年前のマルチフォーミングマシン5台を改造し、稼動できるようにしました。 マルチフォーミングマシンは1台1000万円以上と高価なので、大きな投資削減効果となりました。

A メカ式による高速加工

複数のアクチュエーターを NC (コンピューター) 制御で別々に動かす最新式と違い、メカ式は一つの回転運動を動させて動かします。 セッティングには時間がかかりますが連動しているがゆえにタイミングなどの動作精度が高く、より高速に回せます。 この特徴は線パッキンの様な「少品種多ロット(少ない種類を大量生産)」の製品に向いています。

B 機構開発により生産性4倍

上述のとおり、生産数量が月産5千万個と膨大です。 その量に対応するため元々高速化に適しているメカ式フォーミングマシンを更に改良し倍速で動かせるようにしました。 また、2個同時で加工できる機構を開発したことで生産性は4倍となりました。

C NG 品の流出ゼロ

上述のとおり自動車向けは厳しい品質レベルが要求されます。 この「線パッキン」には3つの関門を設け、隙間の大きいもの、捻じれているものなどのNG品を自動で取り除いています。 なお、この関門はカラクリ仕掛けの様なユニークな仕組みで、非常な安価で用意しました。 安価ではありますが、数億個の出荷実績の中で一個もNG品を流出させていないなど確かな効果が確認されています。