株主・投資家の皆様へ

代表取締役会長兼社長 柴野 恒雄


前期(2017年3月期)の業績はいかがでしたか?

 アジアと欧州は好調でしたが、自動車向け品質マネジメント規格リニューアルの影響による量産開始の遅れや、OA機器向けの減少、またメキシコ第2工場の立上げコストの増加などにより、日本と米州の収益悪化は想定を超えました。円高の影響も重なり、売上は2016年3月期に比べ6.4%減の178億58百万円、営業利益は同63.0%減の2億47百万円、経常利益は同48.4%減の3億46百万円、親会社株主に帰属する当期純利益は同88.6%減の67百万円となりました。業績予想を下方修正するなど株主の皆様には大変なご心配をお掛けし申し訳御座いませんでした。

中期経営計画の目標年度まであと2年ですが、達成は難しいのではないでしょうか?

 投資については、前期は英国のEU離脱、米国のトランプ政権誕生など地政学的リスクや市場動向に大きく影響を与える出来事がありましたが、それらを慎重に分析しながらほぼ計画通り工場新設、M&Aを実行しました。一方、売上については自動車・医療向けは順調であったもののOA機器向けは計画の半分となり、また、人材獲得に苦戦するなど急な体制拡大にマンパワーが追いついていない影響等もあることから、目標年度は2020年3月期から延伸させていただくことにいたしました。新たな目標年度は、今後1年間を目処に精査し検討してまいります。

自動車分野について、何か見通しに変化はありますでしょうか?

 スタートが遅れている機種はありますが、全体的な見通しはさらに良くなりました。自動車メーカーの部品共通化の方針により、淘汰されるサプライヤーと注文が集中するサプライヤーの二極化が進んでいますが、当社はグローバルに生産拠点を持っている優位性などから注文が集中する後者となっており、既存品・新規案件共に増えております。インサートモールドと深絞りも量産の準備が進んでおり、収益貢献する日が近づいてまいりました。これらはEV(電気自動車)にも使われる見通しです。

インサートモールド、深絞り

医療分野について状況を教えてください。

 自分で医薬行為を行うセルフメディケーションの案件が増えています。セルフメディケーションは、医療機関への受診件数を減らし費用を抑えることが出来るため、特に医療費負担で苦しんでいる先進国政府は普及を後押ししています。その背景もあり、欧州では喘息薬吸入器用ばねの横展開が進み、新薬用やジェネリック薬用などにも採用される予定です。また、新製品のインスリン注射器用のばねや深絞りなども量産化に向けて開発中です。国内においても点滴用の留置針の需要増や、深絞りを使った医療器具の製品化も進んでいます。

インフラ、規格品ビジネスにも注力されていますが、何か新しい展開はありますでしょうか?

 ナット脱落防止の“ロックワン”は発売から数年経ち、ようやく見通しが立ってきました。インフラ分野はOAや家電とは違い商流や系列などが複雑で、入り込むことは容易ではありませんでしたが、業界の慣習を理解してきましたので販売戦略を展開出来るようになりました。用途は鉄道や道路、ソーラー発電、建築物などに広がっており、これから建設スタートする東京オリンピックの施設でも使用される予定です。

 軟質材のねじ穴を補強する“タングレス・インサート”はここ数年、過去最高の更新を続けております。軽量化が進んでいる飛行機や鉄道向けで需要が増えたことと、優れた作業性により従来品からの置き換えが進んだことが要因です。

 プラスチック製部品のボルト締め部分を補強する“インサートカラー”も海外メーカー向けに規格品化を予定しています。

ロックワン、タングレス・インサート、インサートカラー

トランプ新政権はメキシコに対し厳しい姿勢ですが、メキシコ第2工場は大丈夫でしょうか?また、その他の新工場の状況は?

 メキシコの事業については今のところ順調です。ゼロからのスタートでしたので、そもそも売上減のリスクはありませんでしたし、トランプ政権が国境の壁建設費の予算計上を見送るなど、危機感が後退した今では、想定より新規引合いが多い状況です。その他では、完全子会社化したインドネシアのPT. Yamakou Indonesiaは黒字でスタートできました。また、現地プレスメーカーからの事業譲受により開設したアメリカ第2工場も順調です。

チェコとインドとベトナムに新工場を開設されますが、それぞれの狙いを教えてください。

 チェコ工場の狙いはドイツを中心とした欧州大陸需要の取り込みと英国のEU離脱のリスク回避です。完成は2018年になりそうですが、既に同工場で量産する新製品の開発が進んでいます。ベトナム第2工場は手狭になった現工場のキャパ拡張と板ばねの導入が目的です。インド工場は従来タイとシンガポールから輸出していた製品を現地生産に切り替えることと、将来的な現地需要を取り込むためです。

カーボンナノチューブ事業を立上げられましたが、どんな内容でしょうか?

 次世代自動車や先進医療、ロボットなどにも活用できる技術ですので、未来や夢を感じてもらえる事業にしていきたいです。詳しくは「特集」で紹介していますので、ご覧いただきたく存じます。

深絞り加工の船橋電子を買収して3年経過しましたが、状況はいかがでしょうか?

 前々号(2016年6月)で「2,3年後に期待してください」とお話しましたが、近々検査装置向けが量産開始するなど、本格化は早まりそうです。電子機器の高性能化・精密化によりチェッカーピンの極細化が進み生産可能なメーカーが限られてきているため、当社に引き合いが集中しています。また、自動車向けは2018年頃から、医療向けは2021年頃から量産する見通しです。一方で2017年3月に深絞り生産拠点のひとつである宮城工場を閉鎖しました。船橋電子は元々ベテラン社員が多く、当社グループ入り後も定年退職者が増えておりましたので、分散しているマンパワーと設備を千葉工場に集中させる必要がありました。

今期の見通しは如何でしょうか?

 中期経営計画の公表以来、新工場を急ピッチで増やしてきましたが、今期のチェコ、ベトナム第2、インド工場で一旦終わりとします。大きな投資負担は今期いっぱい続きますが、一方で今期後半から来期に収益貢献する案件もたくさん抱えています。いろいろとご心配をお掛けしておりますが、少しずつ目指す姿に近づいていますので、何卒ご期待いただきます様よろしくお願いいたします。