匠の技術

匠の技術とは


若手の頃、特に思い出となった経験などはありますか?
 当時、コンピューター制御でばねを製造する工場は無かったのですが、旧福島工場でそれを初めて取り入れました。教科書もノウハウも無い状態からのスタートでしたので、最初は手探りでしたが、先輩たちとオリジナルの方法を考え、スタイルを作り上げていくのが非常に楽しかったです。
 もうひとつは、自動梱包機を自作したことです。当時福島工場にあったフロッピーディスクシャッターの全自動ラインは梱包も自動でしたが、私の担当の線ばねでは手作業でした。一日中、ピンセットで一つずつ箱に詰めている後輩を何とか梱包作業から解放させてやりたいと思い、見よう見まねで作りました。普通科出身で工業系の知識も無かったので殆ど1からの勉強でした。

郡山試作センターはどんな長所や特長がありますか?
 郡山試作センターは、規模は小さいのですが、当社の線ばね技術と設備が凝縮された技術開発拠点です。材料投入から焼き入れ、性能・品質検査まで出来るので、その場でお客様の細かい修正や変更に対応する事が可能です。

永山さんのモットーといえばどんなことですか?
 私のモットーというより、当社の製造の考え方なのですが、「試作も量産と同じ作り方をする」ことです。試作品は手作業で製作し、量産移行時に量産工程を設計するのが一般的ですが、当社はたった1個の試作でもツールを作り、プログラミングを組むなど量産と同じ作り方にすることで、試作の段階で量産品質も検証します。ここで考案した量産工程やプログラミングがそのまま新潟工場や他の工場に展開されるので、受注獲得から量産品質まで効率の良い生産が可能となります。

いままでどんな難しい試作がありましたか?
 「ダブルコイルばね」が思い出深いです。通常線ばねは線材自体を回転させて曲げるのですが、このような形状の場合、長く伸びた線材ごと回転させることは出来ません。そこで悩みぬいた挙句、思いついたのが線材を固定し機械を回すという逆の発想でした。この方法により「ダブルコイルばね」が誕生しました。また最近では、釣具に使われる部品ですが、棒状の線材にばね状に巻きつけるという珍しい形状でしたので苦労しました。

なぜそのようなアイデアが生み出せるのでしょうか?
 昔の機械では今のように複雑な形状のものは作れませんでしたので、試行錯誤を繰り返した後、断念したこともありました。当時「ああでもない、こうでもない」と悩みぬいてきたことが頭の中にずっと残っているのですが、図面を見たときにその時の記憶が蘇り、解決策が浮かんできます。今は機械も高性能で過去に出来なかった形状も加工可能になっていますが、機械の性能だけではなくこういった「悩みの蓄積」も貢献していると思っています。

最後に、「匠」とはどのような人物だと思いますか?
 限界を決めずに、先を目指して進める人だと思います。匠と呼ばれるのは恐縮ですが、私もまだまだ先を目指したいと思います。

永山さん